ニュースの概要
水産庁は公式サイトで、ウナギの完全養殖について解説している。完全養殖とは、人工的に育てた親魚から卵を採り、ふ化した仔魚を育てて再び親魚にし、次の世代につなぐ技術である。現在の養殖ウナギは、海で獲れた稚魚のシラスウナギを池で育てるものがほとんどで、天然の資源に頼っている。ニホンウナギは国際自然保護連合の絶滅危惧種に指定されており、資源を守りながら供給を安定させる手段として、完全養殖への期待は大きい。日本の研究機関は長年の研究で、卵からシラスウナギまで育てる技術を築いてきた。今回の解説は、その到達点と、商業化に残る課題を整理する内容である。
引用元: (2)ウナギの完全養殖(水産庁ホームページ)
分析・見解
卵からの飼育に成功しても、商業化にはまだ距離がある
ウナギは産卵場がはるか南のマリアナ海溝付近にある魚である。長い間、卵を人の手で得ることすらできなかった。転機は2010年である。水産研究・教育機構が、人工ふ化した親魚から次の世代を得る完全養殖に世界で初めて成功した。
ただし、研究室で成功することと、年間数千万匹を市場に出すことは別の話である。日本の養殖で使われるシラスウナギは、年間おおむね15トン前後の池入れ量である。尾数にすると数千万匹の規模になる。人工種苗(=人の手で育てた稚魚)でこの量をまかなうには、飼育設備の規模も桁違いに大きくなる。
最大の壁は、仔魚のエサとコストにある
完全養殖が難しい理由の一つは、ふ化直後の仔魚が非常にデリケートな点である。天然では、海中を漂う小さな粒のようなものを食べていると考えられている。この正体の解明に長年かかった。研究では、サメの卵を中心にした液状のエサで育てる方法が確立された。しかし、この原料は安定調達しにくく、価格も高い。
近年はサメの卵に頼らない配合飼料の研究も進んだ。それでも、シラスウナギ1匹あたりの生産費は、天然採捕の価格を大きく上回る時期が長く続いた。天然シラスが不漁の年には1キロ数百万円まで高騰するため、人工種苗との価格差は縮まりつつある。だが、まだ逆転とは言えない。
資源保護と商業の両立は、規制と技術の二本立てで進む
ニホンウナギの資源は、1970年代と比べて大きく減ったとされる。国は養殖池に入れるシラスウナギの量に上限を設け、無許可の採捕も取り締まっている。これは需要側を抑える対策である。
一方、完全養殖は供給側の対策になる。天然のシラスに頼らなくてよくなれば、資源への圧力が下がる。ここで見落とされがちな視点がある。完全養殖の成果は、単に天然を置き換えるだけではない。人工の親魚を管理すれば、品種改良ができるようになる。たとえば成長が速い系統や、病気に強い系統の選抜である。ブリやマダイの養殖が、人工種苗の導入後に生産性を伸ばしたのと同じ道筋である。
数年単位の普及シナリオと、残るリスク
現実的な見通しとして、まず高級志向の商品から人工種苗の比率が上がると考えられる。その後、生産規模が増えるほど単価が下がる。この順序はサーモンやクロマグロの養殖と似ている。クロマグロの完全養殖は2002年に達成され、現在では市場に定着した。ウナギも同じ軌道を歩む可能性は高い。
ただし、リスクもある。海外のウナギ資源が減れば、輸入の規制が強まる可能性がある。また、技術が進んでも、消費者が人工種苗を受け入れるかは別問題である。味や安全性の説明、産地表示の整え方が、普及の速度を左右する。
ビジネスへの影響
外食・小売は、調達の安定を軸に見直す時期にきている
ウナギを扱う外食や小売の最大のリスクは、シラスウナギの不漁による仕入れ価格の急騰である。土用の丑の日の需要期に合わせて、毎年のように価格が動く。完全養殖が普及すれば、この変動が小さくなる見込みがある。
今すぐできる対策は、人工種苗を使った商品の試験導入である。限定メニューやギフト商品で反応を見るだけでも、将来の仕入れ戦略の判断材料になる。あわせて、国産・輸入の比率や、代替素材への切り替えを組み合わせた、複数の調達ルートを持っておくことが望ましい。
養殖事業者・投資家は、設備とエサの両面で採算を読む
養殖事業者にとって、人工種苗の導入は初期投資が大きい。ただし、天然シラスの許可枠や価格に左右されない経営基盤をつくれる利点がある。設備を持たない事業者は、研究機関や種苗供給企業との連携で、まず仕入れ先を確保する方法もある。
投資の視点では、エサの原料調達と飼育設備の自動化が、採算を左右する二大要素になる。こうした周辺分野の企業にも、事業機会が生まれやすい。
発信の仕方が、消費者の受け止めを左右する
ウナギは食文化と結びついた食材なので、技術の話だけでは心に響きにくい。資源を守るための取り組みであることと、味や品質が確かであることを、具体的な数字と体験で伝える工夫が要る。試食会や産地見学など、顔の見える形での説明が、信頼を積み上げる近道になる。
